この1冊:第11回 『日本人なら知っておきたい日本文学』(幻冬舎)

題名だけを読むと、いわゆるカタい日本文学の解説書と思ってしまいます。しかし、中身は日本の古典文学を扱ったコミック新書です。古典の作者やその登場人物で個性的なキャラクターを9人とりあげて、漫画とエッセイで愉快に紹介したものです。この手のものにはおもしろさを追求するだけで、内容がずいぶんとお粗末なものがあります。けれども、これはきっちりと古典の内容を押さえたものになっています(現代風に相当デフォルメされていますが)。

実は古典作品は現代のサブカルチャー文化にも大いに影響を与えています。たとえば、宮崎アニメの名作『風の谷のナウシカ』のヒロインは堤中納言物語の「虫めづる姫君」にヒントを得て、造型されています(宮崎駿自身が述べています)。きっかけはどのようであれ、とにかく古典の世界に興味を持ち、親しみを持つことがまず必要だと私は考えています。

読んでいておもしろい。私も何度か笑ってしまいました。それに、人物の画がかわいらしくて、キュートです。清少納言など「えっ、授業で扱っているイメージとちがうけどなあ…まあ、かわいらしいからいいかな?」とおカタい国語の教師に思わせるくらいです。

画を紹介することはできないので、人物たちのキャッチコピーをいくつか採りあげて載せておきます。それぞれ誰のことだかわかりますか。

①〈 言いたい放題 〉
②〈 ぐるぐる悩む 〉
③〈 イケメン戦隊の司令官 〉
④〈 夢見るオタク少女 〉
⑤〈 脱サラ・フリーランサー 〉

正解は①清少納言②紫式部③源頼光④菅原孝標女⑤兼好法師です。たとえば、鬼退治で有名な③源頼光の漫画では彼にしたがった「四天王」と呼ばれた屈強の武士たちがカラーレンジャーになぞらえられています(レッド役が渡辺綱といった具合です)。「皆きらきらしく魂太く愚かなる事なかりけり(それらの若者はみんなきらびやかで見た目もよく、勇敢で文句のつけようがなかった)」と実際に今昔物語集に出ているからです。

その他、清少納言や紫式部、藤原道長などの章での人物同士のやりとりなど、軽快で非常に上手に描いてあると思います。エッセイ部分を担当している海野凪子さんは外国人向けの日本語講師をしている方ですが、途中にはさんである日本文学にまつわる四コマ漫画にもそれが反映していて笑えます。芥川龍之介『羅生門』には魚を蛇だと偽って売ることを「悪」だとする場面が出てきますが、ある外国人生徒に「蛇は美味しいのになにが悪いことなのかわからない」と言われたそうです…

前回紹介した『光源氏の一生』などでも、まだ古典の世界にとっつきにくさを感じる人でも、この本ならばまず大丈夫でしょう。これを読むだけでも、古典の教養と知識がけっこう身につくと思います。本校図書館には古典関係の親しみやすい入門書がたくさんあります。ぜひとも活用して、すばらしい日本古典文学の世界に親しんでください。

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