この1冊:第17回 『学研の大図鑑 危険・有毒生物』

今回はちょっと変わったところで、図鑑をとりあげます。この本は我々人間にとって危険な存在である生物たちを写真と解説文で紹介したものです。特に日本近辺にいるものを扱っています。生物が強い攻撃性を持ったり、有毒になったりするのは、餌をとったり、身を守ったりするためでしょう。それはそれぞれの生物たちが生命を維持してゆくために、身につけているものです。

エコロジカルな観点からは、あらゆる生物生命ができるだけ共存共生してゆかねばなりません。ですから、人間にとって危険だからといって、やみくもにある特定の生物を滅ぼしてしまうのは間違っているでしょう。人間は万物の霊長ですが、その分の責任もあるのです。また、食生活においても、素材となる動植物についての正しい知識を身につけておくことが大切です。できるかぎりの共存共生をはかり、生き物によって危ないめに遭わないためには、人間のほうも正しい知識を身につけなければなりません。

この本は純粋に知的な好奇心から読んでも非常におもしろいと思います。私がこの分野の生物に興味があるのは、幼い頃から虫捕りや釣りをしてきたからです。たとえば、釣りをしていると鋭い歯やエラを持った魚、ヒレや身に毒を持った魚やへびなどに接する可能性があります。ですから、昔からこの手のものはよく読んできたのですが、この本はいままでで一番おもしろいですし、情報量も豊富です。危険度によってA(重症化や死亡する可能性が高いのですぐに医療機関にかかる必要がある)B(場合によっては重症化する可能性もあるので注意が必要)C(応急手当のみで済むことが多い)の三つの段階にそれぞれの生き物が分けられています。

海にいる生物では鋭い歯を持つサメや尾に毒棘を持つエイの仲間が危険なのはよく知られています。しかし、小さな生物、日本近海にいる巻き貝(刺されると呼吸困難になる猛毒のアンボイナガイなど)やタコ(フグ毒と同じテトロドトキシンを持って咬みついてくるヒョウモンダコ)やカニ(スベスベマンジュウガニなど)の類でもAにランクされているものがたくさんあります(このカニは食べなければ大丈夫です。一般的にはツメバサミの部分が黒い種類のカニは食べてはいけないとされています)。磯遊びでも何かなしに見たこともない生き物にさわるのは本当は危険なのです。(裸足で磯辺を歩くのも厳禁です。)たとえば、映画『ニモ』にも「ドリー」という名前で出ていた美しいブルーの「ナンヨウハギ」という魚は背びれの棘に非常に強い毒を持っているのでAランクになっています。海釣りの初心者が知らずに痛い目にあうアイゴゴンズイという魚もいます。

この本には載っていませんが、ウナギも生で食べてはいけません。弱いですが、生の血に毒があるのです。ウナギ料理には刺身はありませんよね。熱を通せば、その毒性は消えるのです。価格高騰ということもあってか、最近、大阪でも天然のウナギ釣りがブームになっていましたが、自分でさばいたりしたあとは、まな板などについた血をよく洗う必要があります。自分で獲ったり釣ったりした魚を食べるときには、一応図鑑やインターネットで調べるべきです。特に、あまり見たことのないものについては、きちんと調べましょう。一般的な姿をしていても、身の中に寄生虫がいるので、よく熱を通さなければならない魚もいます。(バラエティ番組の無人島サバイバルなどでも、自分で獲った魚を食べる場面が出てきますが、あれもきちんと専門家のアドバイスを受けているはずです。そこでよく食べられているアオブダイなどは大きな成魚になると、肝臓にシガテラ毒を持つものが出てきます。)

虫の世界では蜂でもスズメバチの仲間はすべてAですが、その他はBもしくはCになっています。ただし、アレルギーのショック症状が出る人がいるので、BやCの蜂でも用心するに超したことはありません。(幼い頃にカブトムシを獲りに行って大きなスズメバチに追いかけまわされた経験があるので、私も蜂は大の苦手ですが、この虫と人間とのつきあいは長くて、人類の食文化や生物界の食物連鎖という観点からはなくてはならない昆虫ですね。)

日本にもサソリがいることを知っていますか。2種類いるのですが、大きい方は7㎝ほどになります。我々はサソリというと猛毒で、あの尾の針で刺されると命が危ないと思っていますよね。出会ったらパニックになりそうですが、日本に生息する2種類のサソリとも毒性は弱くてランクはCになっています。(ただし、輸入された木材等を経由して入ってきたものは要注意です。)

最近、日本でもセアカゴケグモが繁殖していることが問題になっています。特に関西に多く、幼い子どもたちが遊ぶ公園などにもいるので困ったことです。この本によると、「α-ラトロトキシン」という神経毒を持っているそうです。咬まれると、激しい痛みに続いて、ひどくなると呼吸困難、脱力感、頭痛、不眠などの症状がでるそうです。このクモ1匹でマウス7匹が死んでしまうほどの強毒です。ランクはBになっていますが、万が一でも、咬まれたらすぐに病院に行かなければなりません。(クモに咬まれたら、どんな特徴があったかを覚えておく必要があります。)赤い斑点がある綺麗な小さなクモを見つけたら、近づかないようにしましょう。そして、すぐに大人に報告してください。

植物でも園芸種の球根の類を誤食することが危険なことは知られていますが、この本では我々がよく口にする梅、桃、杏(あんず)もAにランクされているので驚く人も多いのはないでしょうか。何が危険かというと、これらの植物の「葉」「未熟果」「核種子」には強烈な酸が含まれているのです。ですから、特に青梅は生で絶対に口にしてはいけないとされています。また、「硬い種子を割って、内部の軟らかい部分を食べることは非常に危険である」と注意されています(いい香りにつられて幼い子どもが生で梅をかじったり、大人でも桃の種子の中の白い部分を食べようとしていたりしていたら、注意してあげましょう)。古来、日本や中国の民間伝承で梅や桃に邪気を払う力があるとされるのは、この性質が邪悪なものを撃退するとされたからでしょう。我々の食生活に欠かせないこれらの食材に対しても正しい知識を身につけておく必要があるということです。

他にも図書館にはいろいろな種類の生き物の図鑑があります。生物の多様性に親しむのも人生の大きな楽しみではないでしょうか。これは大部な本なので持ち歩くわけにはいきませんが、興味がある人は図書館で読んでみてください。

コメントは受け付けていません。